前編 後編
「あなたは死んだ」
その言葉に、主人公・澤田智也は驚愕した。自分が死んだという新聞記事を見せられたのだ。しかし、智也は無事であり、記事に書かれている事故現場や遺族の名前も知らなかった。
「これは何だ?」
智也は、新聞記事を手に取り、目を疑った。記事には、自分の名前や顔写真が掲載されていた。事故の日時や場所も明記されていた。それによると、智也は一週間前に高速道路でトラックと衝突し、即死したというのだ。
「ありえない……」
智也は、自分の記憶を辿った。一週間前のその日、智也は仕事を終えて帰宅した。恋人の美咲と電話で話した。テレビを見た。本を読んだ。眠った。何も変わったことはなかった。
「これは誤報だろう」
智也は、新聞社に問い合わせることにした。記事を見せられたのは、智也が勤める会社の同僚だった。同僚は、新聞記事を見て驚き、智也に連絡しようとしたが、つながらなかった。そこで、直接会社に来て確認しようと思ったのだ。
「お前、大丈夫か?」
同僚は、智也に心配そうに尋ねた。
「ああ、大丈夫だよ」
智也は、無理やり笑顔を作った。
「これは間違いだって言ってやるからさ」
智也は、新聞社の電話番号を探した。しかし、電話に出たのは機械的な音声だった。
「お電話ありがとうございます。現在、大変混み合っております。しばらくお待ちください」
音声は繰り返されるが、なかなか人間の声が聞こえない。
「くそっ……」
智也は、イライラしながら待った。やっと人間の声が聞こえたと思ったら、
「申し訳ございませんが、本日の営業時間は終了いたしました。明日以降におかけ直しください」
と言われてしまった。
「えっ?」
智也は、信じられない気持ちで電話を切った。
「どうした?」
同僚が尋ねた。
「もう終わってるってさ……」
智也は、呆然と答えた。
「まさか……」
同僚も驚いた。
「明日またかけ直そう」
智也は、そう言って新聞記事を折り畳んだ。しかし、その夜は眠れなかった。自分が死んだことになっている新聞記事が頭から離れなかった。