希望のカフェ – 第3話

ある午後、客足が落ち着いた時間帯に、常連の年配男性がカウンターに座る。そのおじいさんはいつも穏やかな笑顔で、ゆっくりコーヒーを味わう。だがこの日は少し違った。

「この店がまだ小さな喫茶店だった頃、亜希子さんにはずいぶん世話になったんだよ」

静かに語り始めたおじいさんの言葉に、勇気は不思議そうに耳を傾ける。

「戦後まもなくで、まだ食べるものも足りなかったころ。俺が子どもの頃に両親を早くに亡くしてね……その時、亜希子さんの家でしばらく面倒を見てもらったんだ。あの人はほんとうに優しかったから、いろいろ助けてもらったよ」

おじいさんの話す“亜希子さん”は今の母の姿よりもずっと若く、強い意志を持って町の人々を支えていたという。それだけでなく、町が災害に見舞われたときには率先して手助けし、物資を分け合い、困っている人に働き口を紹介したこともあったという。

「それで、俺も何か返せないかとずっと思っていたんだけど、あの人はいつも『あなたの笑顔が見れればそれで十分』って言ってね」

おじいさんは思い出を噛みしめるように言葉を続ける。その一言に、勇気は幼少期の母の姿を思い浮かべる。病気を患う前も、今も変わらない“誰かを支えたい”という思い。それが母を動かしてきた大きな原動力であり、このカフェの本質なのだと気づかされる。

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