希望のカフェ – 第3話

第1話 第2話

紡がれる絆

店のシャッターをゆっくり上げながら、勇気はふと母・亜希子の姿を思い浮かべた。病院から戻ってくると、母の容体は相変わらず安定しない。けれど店を閉めているわけにはいかない。母の看病とカフェの経営、その両立は想像を超える忙しさだった。しかし、いつもは閑散としていた朝に、町の人々が交代で店を手伝いに来てくれる。その光景は、勇気にとって思いがけない心強さとなる。

「勇気くん、コレ余ってる小麦粉なの。よかったら使ってちょうだい」

隣町から仕入れをしているパン屋の店主が、わざわざ顔を出しては新しいレシピの提案までしてくれる。たとえば地元でとれた旬の野菜を使ったキッシュや、おやつ感覚で食べられる甘いパン風メニューなど、勇気の頭にはなかったアイデアばかりだ。最初は「このカフェらしさって、どんな形なんだろう」と戸惑いもあったが、新たな試みをするうちに、少しずつ店のメニューにも幅が出てきた。

さらに商店街の仲間たちは、閉店後や早朝に集まって「お店のオリジナル雑貨を作ってみたら?」「SNSの写真をもっと工夫してみよう」などと真剣にアドバイスをくれる。都会では当たり前だった手段が、ここではまだ珍しい部分もあるのだと実感する一方、「背伸びをしすぎずに、まずはできることを少しずつ」という声もある。地域ならではの温かみを失わないように気遣う人が多いのだろう。「希望のカフェ」の看板は、そうした町の人々の好意に支えられながら、なんとか毎朝上がり続けている。

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