希望のカフェ – 第3話

数日後、勇気はカフェの倉庫を整理していた最中、古い木箱の中から手紙の束を発見する。茶色く黄ばんだ封筒には、母の達筆な文字が並び、その差出人や宛名も様々だ。故郷を離れた親戚、遠方の友人、町から巣立った若者たち……そしてたまには、日常をくれた商店街の人々への感謝の言葉も書かれている。そこには繰り返し出てくる言葉があった――「安心して集まれる場所を作りたい」。

「母さん、こんなにたくさんの人に手紙を出していたんだな……」

封を開けて読んでみると、商店街の青年が就職で引っ越す際に「落ち着いたらまた帰ってきて。私のカフェで待ってるわ」と励ましていたり、親戚の家が苦しい時期に「ほんの気持ちだけどこれを使って」とお金を少し包んで送っていたりする内容が綴られている。それだけではない。町の未来のために、亜希子は「どうすればみんなが笑顔で集まれる場を増やせるのか」をあちこちに相談していた痕跡も残されていた。

「俺が今ここにいるのは、母さんの思いを守るためなんだな」

手紙の束を握りしめながら、勇気は思わずつぶやく。ここはただの喫茶店でも、単にコーヒーを提供するだけの場所でもない。誰かが笑顔を失いかけた時に立ち寄れば、ほんの少しでも元気を取り戻せる――そんな温かな空気を生み出す場所。自分はその一部を受け継ぐ者なのだと改めて感じた勇気は、倉庫の埃を払い、新しいメニューやサービスを考える意欲を湧かせる。

そんな矢先、亜希子の容体が一時的に安定し、久しぶりにカフェへ顔を出せる日がやってきた。店のドアを開けると、偶然居合わせた常連客たちが拍手で迎える。その拍手に照れたような顔を見せながらも、亜希子は嬉しそうに店内を見回し、カウンターに腰かける。

「ご無沙汰していました。皆さん、私の息子がいろいろご迷惑をかけたでしょう?」

冗談交じりにそう言いながら微笑む姿は、ほんの少し前までの弱々しさを感じさせない。客たちが「いえいえ、勇気くんはよくやってるよ」「あなたの息子さんらしく、一生懸命ね」と口々に言うのを聞き、亜希子は笑顔を深める。母がもともと持っていた、その場を明るく照らす力を久しぶりに目の当たりにして、勇気の胸には熱いものがこみ上げた。

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