希望のカフェ – 最終話

それから数日後、勇気の不安は的中する。亜希子の容体が急激に悪化し、担当医からは厳しい宣告を受けた。「今晩が峠でしょう。覚悟を……」という言葉に、勇気は頭が真っ白になる。それでも病室へ駆け込むと、苦しそうな呼吸の中、亜希子は微笑むように唇を動かす。

「母さん、俺ね、この町が大好きになったよ。母さんが守ってきたカフェも、そこに集まる人たちも、本当に温かくて。俺は、自分のやり方であの店を守ってみる」

言葉が震える。涙がこぼれ落ちそうになるのを堪えて伝えると、亜希子は勇気の手をわずかに握り返す。その力は少しずつ弱まっているように感じられ、勇気の胸は締めつけられる。

「母さん…ありがとうね…」

わずかに聞こえたその声は、とてもか細く、それでいて確かに温かい。亜希子が最後に見せた笑顔は、勇気の心に焼き付いたまま消えない。小さくなった手がゆっくりと力を失っていくのを感じ、勇気は「母さん…母さん…」と呼びかけるが、やがて亜希子の呼吸は止まり、肩の力がすとんと抜ける。病室には静寂だけが残り、勇気の頬を涙が伝って落ちた。

数日後、町の人々が集まり、亜希子の葬儀がしめやかに執り行われた。祭壇には、小さな花束と「希望のカフェ」の看板写真が飾られ、誰もが懐かしそうに、そして悲しそうにそれを見つめる。亜希子がいたからこそ、この町には失われないつながりが生まれ、人々は温かい居場所を得ていたのだと思い知らされる。人々が口々に「ありがとう、亜希子さん」と手を合わせるのを見て、勇気は母が残した大きな遺産を実感した。

葬儀が終わり、しばらくして勇気は「希望のカフェ」を再開することに決めた。店をしばらく休んでいた間にも、町の人々から「いつお店開けるの?」「手伝えることがあったら言ってね」といった声が絶えない。大事な人を失った悲しみを抱えながらも、今やらなければいけないことがある。

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