希望のカフェ – 最終話

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母の夢、僕の道

病室の扉を開けた瞬間、勇気は亜希子の小さな肩がかすかに上下しているのを認め、胸がぎゅっと締めつけられるような思いに駆られた。医師からは「そろそろ覚悟をしておいてください」と言われており、亜希子と過ごせる残りの時間は長くない。点滴スタンドに繋がれ、眠っているようにも見える亜希子のそばへ近づくと、薄く開いた瞳が勇気の姿を見つけ、微かな微笑みを見せた。

「母さん、具合はどう?」

声をかける勇気に、亜希子は小さく頷く。「大丈夫…」と聞こえるか聞こえないかの声が返ってきた。決して大丈夫なんかではないのに、最後まで強がる母の姿に、勇気は言葉を詰まらせる。枕元には町の人々からの手紙や花束が置かれ、「早く良くなって戻ってきてください」といったメッセージが添えられている。その一つひとつを指先でなぞるように見ていた亜希子は、かすかな笑みを浮かべた。

「母さん…ありがとう。ここまで育ててくれて、たくさんの愛情を注いでくれて。俺、決めたよ。カフェをずっと続けるって。母さんがいなくても、俺が守っていくから」

そう伝えると、亜希子はうっすら潤んだ瞳のまま、何かを言おうとして口を動かしたが、言葉にならなかったようだ。会話はままならない。けれど、しっかりと勇気の手を握り返してくれる。その温もりに、勇気は痛いほど母の思いを感じとる。

町の人々も入れ替わり立ち替わり見舞いに訪れては、「早く帰ってきてね」「あなたのコーヒーが飲みたいよ」と声をかける。ただ、その言葉の裏には、亜希子を失うかもしれない恐れや寂しさがにじんでいた。看護師がそっと病室を覗き、声をかける。「そろそろご本人もお休みになる時間ですから、また明日にしましょうか」。勇気は小さく頭を下げ、亜希子の隣にかがみこむ。「また来るからね、母さん」。すると亜希子はか細い声で、「待ってるわ…」と返し、瞼を閉じた。

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