星の涙 – 第5話

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午後十時を少し過ぎた頃、桜と陽斗は深山郷を後にし、古びたホームに立っていた。線路脇の草むらに夜露が光り、ひんやりとした風に二人の息が白く立ち上る。手にした布袋には、深山郷で授かった星形の護符が大切にしまわれている。

「これで、母さんの手掛かりは二つになったね」

陽斗がポケットから小さな袋を取り出し、微かな誇らしさとともに見せる。桜はうなずきながらも、護符をそっと撫で、胸の奥で囁いた。

――でも、本当に母はここにいたのだろうか。

やがて、ガタンという深い音を立てて列車がホームに滑り込んだ。窓枠にかけられた古い銀色の手すりを握りしめ、二人はゆっくりと乗り込む。座席に腰を下ろすと、外套の影が窓に映り、遠ざかるホームのランプがひとつ、またひとつと遠ざかっていった。

「陽斗は、家族の写真、まだ持ってる?」

桜が闇夜に染まる窓の外を見つめながら問いかけると、陽斗はトレイの下から色あせた写真を取り出した。母と父の笑顔が写っているその一枚を、慎重に手のひらに広げる。

「うん。いつか、ここでみんなと笑い合いたくて」

陽斗の声は静かだが熱を帯びていた。