大空の船 – 第1章 前編

まだ夜明け前の静かな海辺の町で、一人の少年が岸辺に座り込んでいた。少年の名はアレン。年は十もそこそこだが、彼の瞳には大人にはない強いきらめきが宿っている。空を見上げるその横顔には、期待と憧れ、それから少しばかりの焦燥が入り混じった複雑な色が見えた。

「今日は雲が低いなあ……」

そう呟いたアレンの手には、小さな紙飛行機が握られている。昨夜、使い古した新聞紙と糊を使って自分で作ったものだ。空に投げればひらりと舞い上がるが、すぐに風にあおられて砂浜に落ちてしまう。少年の思い描く「自由な飛行」には程遠く、どうにかしてもっと上手く飛ばせないかと、夜通し考えこんでいたらしい。

海の向こうからほんのりと朝焼けが広がりはじめると、アレンは軽く立ち上がり、少しの間ストレッチをするように腕を回した。夜風を浴びていたせいか、関節がこわばっている。小さく息を吸い込み、紙飛行機を胸の高さに構えると、深呼吸と同時に風を測るように目を細めた。

「もう少しだけ……いけるはずだ」

低く呟くと同時に、紙飛行機を空へ向けて放る。狙いをつけた通り、一瞬だけ海風に乗ってふわりと上昇したが、すぐに乱れた風に巻き込まれ、浜辺の砂地へ落下。軽く肩を落としながらも、アレンはその紙飛行機を回収しに砂浜を駆けていく。どこか満足げな表情を浮かべているのは、先ほどの数秒間の上昇感を味わえたからかもしれない。

「いつか……もっと高く、もっと遠くまで飛ばせるようになるんだ」

落ち着いたようにそうつぶやきながら、アレンはさっきより破れてしまった紙飛行機の翼をそっと撫でていた。すると、背後から聞き慣れた声が響く。

「アレン、こんな朝早くから何してるのよ」