操舵担当をお願いしているラウルという男が、舵輪の前でアレンを呼んだ。彼はもとは港で働く船乗りだったが、「空を航行する船があるなら、一度は操縦してみたい」と手を挙げてくれた。
「よし、行こう。みんな配置について!」
アレンの声に合わせて、甲板にいる人々がそれぞれ持ち場を固める。リタは機関室側へ走り、クラウスはエンジンの出力計と燃料系統を確認。ラウルは大きく舵輪を握りしめ、「まるで嵐の船出みたいだな」と微かに笑みを浮かべた。
見物客の視線が集まる中、アレンは大きく息を吐く。そして落ち着いた調子で甲板から声を張り上げた。
「エンジン、始動!」
リタの合図とともに、船体内部から低い振動が伝わり、歯車の噛み合う音が聞こえはじめる。バルブを操作する音が重なり、蒸気の圧力が安定するまで数秒の静寂が訪れた後、プロペラがゆっくりと回転を始める。その回転が徐々に速くなるにつれ、船体に微かな振動が広がっていく。
「浮力装置、稼働良好! 気球圧も安定だ」
リタの力強い報告に、アレンは舵輪を握るラウルへ目配せする。まだ離陸といっても、どのように高度を保ち、どのくらいの上昇速度になるかは未知数だ。試作機では何度もトラブルに見舞われたが、今回ばかりは大失敗は避けたいところだ。
「ラウル、頼むぞ」
「ああ。気を張っていくさ」
その短いやりとりを最後に、アレンは自分の心臓の鼓動が一段と早まるのを感じる。遂に、アルバトロスを空へ送り出す瞬間が来たのだ。


















