大空の船 – 第3章 前編

とはいえ、まだまだアルバトロスは試験段階。エンジンの稼働時間や燃料の持続性、気球の温度制御など、長距離飛行には数多くの課題が残る。アレンもそれは十分承知のうえで、まずは「空へ浮上する」という最初のハードルを越えられたことに心からの喜びを感じていた。

「アレン、視界に雲が見える。そろそろ高度を下げるか、それとも雲の上に行く?」

ラウルの問いに、アレンは一瞬迷う。雲の上という未知の世界に足を踏み入れてみたい気持ちもあるが、いきなりリスクを冒すわけにもいかない。結局、彼は「もう少し安定飛行を試してから、ゆっくり降下しよう」と答えた。乗組員の安全を第一に考えるなら、今日は大事故を避けつつ、できるだけ情報を集めるのが賢明だ。

プロペラ音と風のざわめきが耳に心地よく響く中、アレンは甲板の隅でそっと空を見上げる。「ずっと憧れていた空に、こうして自分の船で浮かんでいるんだ」と思うと、込み上げる感情が抑えられない。かつて紙飛行機を投げていた幼い自分、ゴードンの工房で怒られながら技術を学んだ日々、廃材からエンジンを組み立てては爆発させた夜。すべてが今この瞬間に繋がっているように感じられた。

ゆっくりとした旋回を続け、エンジンの調子が安定していることを確認すると、ラウルが「じゃあ一度高度を下げるぞ」と宣言。アレンはうなずき、リタやクラウスらと協力して船体を降下させる。少しずつ高度が下がり、町外れの広場や見物客の姿が再び肉眼ではっきり見えるようになる。下で待っている人々は、アルバトロスの動きを注視しているのが手に取るようにわかる。もうすぐ、この初飛行を無事に終え、地上に降り立つことになるだろう。

甲板を走る冷たい風を感じながら、アレンは声にならない興奮を覚え、そして自分たちの冒険が今始まったばかりだという事実に胸を躍らせていた。

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