大空の船 – 第3章 前編

アレンは甲板を見回しながら、仲間に声を掛ける。幸い大きな突風もなく、揺れはある程度想定内に収まっていた。リタは機関部でパイプの圧力計を観察しながら、「温度上昇も許容範囲内!」と叫んでいる。その表情には今まで見たことのない生き生きとした笑みが浮かんでいた。

やがてアルバトロスは広場の頭上を抜け、少しずつ町の上空へ差しかかる。下では住民たちが一斉に手を振っている姿が見え、子どもたちは地面を飛び跳ねるようにして歓声を上げている。その様子を見て、アレンはこみ上げてくるものを堪えきれず、静かに涙を浮かべそうになった。自分だけの夢じゃなかったのだ――こんなにも多くの人が、アルバトロスが飛ぶ瞬間を待ち望んでいた。

しかし、まだ安心するのは早い。高度を上げるごとに変化する風向き、雲の層、そして気温。未知の要素が山のようにあり、先ほどまでの計算通りに動く保証はない。案の定、少し上昇しただけで横風が強まり、船体が大きく揺さぶられる。

「ラウル、頭を北東に向けて! こっちの風は強いかもしれないけど、乱気流を避けられるはず」

クラウスが地図と方位磁石を見比べながら必死に指示を送る。ラウルは苦笑しつつ、「了解だ」と舵輪を切る。少々荒い操舵に船体がきしむ音を立てたが、リタの迅速な圧力調整が功を奏し、船の傾きはじきに落ち着いてくる。息を詰めて見守っていたアレンもようやく胸を撫でおろした。

「やった……すごいよ、船がちゃんと応えてくれる」

甲板の端に寄りかかって空の景色を見回した技師の一人がつぶやき、それに続くようにみんなが小さく頷く。ちょっと前まではありえないとさえ思われていた光景が、今は確かな現実になっているのだ。地上の町が遠く見え、山の稜線がいつもとは違った角度で広がっている。水平線の先には、薄青色の空がさらに遠くまで続いているのを実感できた。

タイトルとURLをコピーしました