大空の船 – 第3章 前編

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朝焼けの色が町外れの空をうっすらと染めはじめるころ、アレンはアルバトロスの甲板に立ち、朝露で湿った木材の感触を確かめていた。ついに迎えた初飛行の日。エンジンや気球部分の最終調整を終えたばかりで、もう一度すべてを点検したい気持ちもあったが、それよりも胸を満たすのは高鳴る期待と緊張だった。

「アレン、操縦席の計器は問題なさそうだ」

声をかけてきたのは、整備を手伝ってきた若い技師のクラウス。彼はアレンより少し年上で、当初は半信半疑だったが、今ではアルバトロスに魅了された一人だ。汗をぬぐいながら頬を上気させ、「見物客が随分集まってるみたいだぞ」と指を差す。

見ると、町の住民たちが離陸場の柵の向こうからこちらを見守っている。海辺の漁師、商人、行商人たち、さらには鍛冶屋の親父さんや大工の面々までが顔をそろえ、「本当に飛ぶのか?」と期待まじりのざわめきを交わしていた。まさかこんなに多くの人が関心を寄せてくれるとは、アレンも思っていなかった。

「アレン、熱気球部分のバルブを少しだけ閉じた方がいいかもしれない。夜明けで気温が上がってくるから、膨張の度合いが変わるはずだよ」

今度はリタという、町の工場で働いていた少女が声をかける。彼女は細かな機械や繊細な調整が得意で、アレンが独立してからは熱心に整備のサポートをしてくれている。アレンは「ありがとう、助かるよ」と応じ、バルブを調整しながら船首部分を見渡した。巨大な帆のように張られた布は、気球を兼ねている。これが十分に浮力を確保し、エンジンが推進力を発揮すれば、アルバトロスは空へ舞い上がるはずだ。

甲板では、他の協力者たちがロープの確認や荷の固定を行っている。まだ試験飛行なので、積載する荷は最小限だ。非常用の道具や、少しの飲料水、あとは飛行に必要な計器類ぐらいしか積んでいない。それでも、この船が本当に空を飛ぶというのだから、誰もが落ち着きを失いかけている。

「おい、そろそろか?」

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