大空の船 – 第3章 前編

少しずつエンジン出力が上がり、プロペラの回転音が甲板に響き渡る。やがてロープを固定していた人々が合図を受けて順に外し始めると、船体がわずかに揺れて、ふわりと浮き上がる気配が伝わってきた。

「……上がってる?」

甲板上で誰かが呟いた言葉に、アレンが答えるように上空を見上げる。まだ数メートル程度だが、確かに地面から離れている。

「すごい、本当に浮いてる……」

周囲の歓声が一気に大きくなり、離陸場の外からは拍手まで聞こえてくる。アレンは緊張した面持ちのまま、コントロールレバーを慎重に操作し、安定性を確かめる。気球部分がしっかりと浮力を稼ぎ、エンジンが前方推進力を生み出しているようだ。

「落ち着いて進めろ。舵が重いなら、バランス修正用のウィングを調整してくれ」

ラウルが息を詰めながら指示を出す。クラウスは急いでレバーを操作し、船体左右に設けられた補助翼の角度を微調整する。

ぐらりと揺れる船体に乗っている全員が一瞬顔を強張らせるが、次の瞬間には舵が思ったより軽く動く感触がラウルの手に伝わった。

「いいぞ……少しずつ高度を上げられる」

船体が地面から10メートル、20メートルと高度を増すにつれ、工房や町並みが下方へと小さくなっていく。アレンは思わず息を呑んで、その光景をまじまじと見つめた。幼い頃、紙飛行機を砂浜で飛ばしては海風に煽られていた自分が、今こうして大きな船で空に浮かんでいるのだ。

「みんな、大丈夫か? 船酔いしそうな人は、どうか座っておいてくれ」

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