歌う井戸 – 第肆話

封印の儀式

陸は夜更けの櫻村を歩きながら、井戸の方へと向かった。夜の静寂が村を覆い、足音の響きだけが彼の存在を知らせていた。手に持っている母の遺品、一冊の古びた日記は、蘭の時代から受け継がれてきたものであり、井戸の魔物を封印する儀式に関する情報が書かれていた。

村の中心、井戸のある広場に到着すると、彼の前に再びその美しい歌声が響き始めた。しかし、今はその歌声に耳を傾ける時間ではなかった。陸は井戸のまわりに円を描くように塩をまき、中心には香を立てた。そして、古びた日記に書かれていた言葉を唱えながら、手を井戸にかざした。

すると、井戸の中から青白い光が放たれ、その光が次第に強くなっていった。陸の体もまた、光に包まれ、彼の歌声がその場に響き渡った。彼の歌声は、蘭や彼の母と同じ特別な力を持っており、それが魔物を引き寄せていた。

「出て来い、魔物!」

陸の呼びかけに応じて、井戸の中から黒い影が現れた。それは、長い髪と赤い瞳を持つ女性の姿をしており、彼女の口からは美しい歌声が漏れていた。陸は彼女を見て、蘭の姿を思い出した。しかし、彼女の目には悲しみと怒りが宿っており、彼女は陸に向かって手を伸ばしてきた。

「私の歌声を奪い取ったのはお前か!」

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