亡霊の街 – 第3話

「あの街には確かにいるんだよ、火事で逝ったはずの連中が。夜になると姿を見せるって、昔から言われてたんだ。冗談だと思うだろうが…私の知人にも、何度かおかしな体験をした者がいる。人影が立っていて、それが急に消えちまったり、焼け焦げた姿のまま追いかけてきたり…」

老人は淡々と語っているが、どこか震えているように見える。佐伯は筆記用具を握りしめながら、その一言一句を逃すまいと懸命にメモを取った。

老人の話によれば、行方不明者の噂は単なる作り話ではなく、実際に確認された事例も少なくないという。また、特に事故や災害で無念の死を遂げた者は、この世に留まってしまう場合があるという伝承も古くから信じられてきたらしい。火災で亡くなったはずの人たちが今もあの街に囚われている——突拍子もない伝説のようではあるが、最近の封鎖騒動や謎の失踪と何か関係がありそうだ。

大火災が原因で亡霊が出るという噂は、ただの怪談や作り話ではなく、実は当時の行方不明者が“あの街をさまよい続けている”という背景に基づいているのではないか。老人の証言と古文書の記録が合わさると、一気にその可能性が現実味を帯びてくる。佐伯は封鎖区域から戻ってきた自分自身の存在に思いを馳せた。都市伝説では「一度街に取り込まれたら二度と戻れない」と言われているが、自分は例外なのか。それとも、何かしら“代償”を支払わされることになるのか。

そんな不安が頭をよぎり始めたころから、佐伯は急に体調が崩れるようになった。取材の疲労だろうか、と最初は高をくくっていたが、日に日に悪寒や頭痛が強くなり、夜になると金縛りのように身体が動かなくなることが増えた。ある晩などは、部屋の鏡をふと覗き込んだとき、背後に何かがいる感触があった。思わず振り返ったが、そこには何もいない。しかし、その一瞬で確かに見えた気がする。焼け焦げた衣服を身につけて、黒くすすけた顔でこちらを見つめる人影が。

「見間違いだ。疲れてるんだ」

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