亡霊の街 – 第3話

そう呟いて頭を振り払おうとするものの、胸の奥底にこびりついた不気味な感覚が消えてくれない。あの街で感じたもの、あの白い影、そして“亡霊”という言葉が頭から離れず、どこへ行っても目の端にちらつく。封鎖区域へ潜入したあの夜以来、自分の中に何かが入り込んできたのではないかという恐怖が絶えずまとわりつくようだった。

それでも佐伯は、自分に課せられた使命を忘れるわけにはいかなかった。これほどの大事件を表に出さないままでいるのはおかしい。そして大火災で亡くなった人々の無念が本当に街に囚われているのだとしたら、その事実を公表することが、ある意味で彼らの魂の救済にもつながるかもしれない——そう考えると、取材をやめるわけにはいかないのだ。

体調不良と幻覚の狭間で揺れながらも、佐伯はこれまでに得た資料や証言を整理し、次に何をすべきか必死に考える。もっと明確な裏付けを取るために、さらなる情報源を探し出さなければならないし、行方不明者に直接関わった人々に話を聞きたいという思いもあった。だが同時に、あの街の“呪い”とも呼べるような力が、確実に自分を巻き込もうとしている気配もある。危険を承知で突き進むか、それとも一度距離を置くか。佐伯の中で迷いが生じかけるが、結局は前へ進むしかないと気持ちを固めた。ジャーナリストとしての直感が、まだ隠された事実がたくさんあるのだと告げている。

鏡に映った黒い人影の残像が頭から離れないまま、佐伯は次の行動計画を立てるため、部屋の明かりを落とした。外はもう深夜を過ぎているのに眠気はほとんどない。息を呑むほどの沈黙の中、胸の奥に感じる微かな振動が何を意味しているのか、本人にもはっきりわからない。ただひとつ確かなのは、あの街と大火災の真相に触れれば触れるほど、何かがゆっくりとこちらに近づいてきているということだった。

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