亡霊の街 – 第4話

「……わかった。あまり無茶はするな。警察として、動ける範囲でフォローはする。けど、あまり期待しないでくれ。俺だってどこまでやれるか……」

そう言い残すと、宮島は疲れ切った足取りで部屋を出て行った。佐伯はドアを閉めたあと、思わず深いため息をついた。確かに危険かもしれないが、ジャーナリストとしては行方不明者が増えているという事実を見過ごすわけにはいかない。もし本当に街が“秘密を探る者”を拒むような存在だとしたら、自分も次の犠牲者になる可能性は高い。それでも後戻りするつもりはなかった。

それから数日が経った。佐伯は亡霊の街に関して新たな情報を探そうとするが、どこへ行っても奇妙なくらい口を閉ざされてしまう。政府関連の部署へ問い合わせをしても、返ってくるのはマニュアルじみた定型文ばかり。街の周辺の住民も、噂を聞くと顔色を変えて話を打ち切る。そんな中でようやく見つけた手がかりは「行方不明者が最後にSNSに残した投稿」くらいだった。そこには、街の写真が数枚アップロードされ、コメント欄には「近づかないほうがいい」「やめておけ」と忠告する言葉が並んでいた。

佐伯はパソコンの画面を凝視しながら、あの不可解な力を思い返す。すると、ここ数日続いている記憶の飛びが妙に気になった。意識しているときは平静なのに、ふと気づくと30分から1時間ほどの記憶がごっそり抜け落ちているのだ。その間、自分が何をしていたのか、どこにいたのかもまったく思い出せない。書きかけの原稿画面だけが開かれ、いつの間にか文章が進んでいることもあった。まるで誰か、あるいは何かに身体を貸してしまったかのような感覚が蘇る。

さらに、夜になると封鎖区域を思わせる夢を見ることが増えた。焼け焦げた建物や、焦げ臭い煙が漂う中を自分が歩いている。そこでは人影がうごめいており、「助けてくれ……」という低い呻き声が響き渡る。耳を塞ごうとしてもその声は頭の中に直接響いてくるかのようで、逃れられない。目が覚めるたびに冷汗をかいており、どれほど疲れていても一向に休まらない。あの街の亡霊たちが、自分を呼んでいるのか、それとも地獄へ引きずり込もうとしているのか——考えるだけで気が滅入るが、それを振り払うように原稿に集中しようとする日々が続いた。

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