亡霊の街 – 最終話

 唇をかみしめながら、佐伯は儀式を再現するための準備を急ぐ。祭壇の代わりになりそうな石の台を見つけ、古文書に記された印を地面に描く。そして、いくつかの道具を文献通りに配置していくが、半分ほどしか再現できない。書き潰されていた箇所や破れた部分が多く、佐伯自身の推測で補完するしかなかった。

 呪文とも祈りともつかない言葉を口にすると、亡霊たちの声が一気に強くなる。風が唸り声に変わるように広場全体を駆け回り、佐伯の意識を死者の世界に引き込みそうな勢いだ。耐えきれず膝をつきそうになるたび、「私たちを救って」という祈願にも似た声が背中を押してくる。それが亡霊の真意なのか、それとも佐伯をより深く地獄へ誘おうとしているのか、もはや判断がつかない。

 ふと、広場の奥に古びた教会の跡地が見えた。かつてそこが儀式の本来の舞台だったのだろうか。佐伯は決死の思いで教会の中へと足を踏み入れる。柱は半ば崩壊し、瓦礫が積もる床には、大火災の残骸らしき焦げた柱や焼け焦げた壁が無残に転がっていた。奥へ進むと、高い天井の中心部に穴が空いており、朝の微かな光が漏れ落ちてくる。

 そこに足を踏み入れたとたん、激しい耳鳴りが佐伯を襲った。見上げると、焼け焦げた政府関係者の姿や、行方不明になったままの無念を宿す被害者の影が次々と現れる。巨大な恨みや悲しみが渦を巻き、叫び声にも似た圧力で佐伯の胸を締めつけた。目を開けていられないほどの痛みと苦しみに襲われながらも、佐伯は意地のように古文書の儀式を続行する。どこからともなく吹き荒れる熱気の中で、亡霊たちが向ける悲哀と怒りが一斉にぶつかってくる。

 街の至るところで音が軋み、建物が崩れ落ちていく音が響き始めた。アスファルトには大きな亀裂が走り、数十年前の大火災を再現するかのような炎のようなものがそこかしこに揺らめく。佐伯は限界を超える痛みに堪えながら、何とか古文書の最後の段階を読み上げた。虚空から鳴り渡る亡霊の絶叫が一層高まった瞬間、まばゆいほどの光が全てを飲み込み、佐伯は意識を失う。

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