亡霊の街 – 最終話

 病院のベッドで横になりながら、佐伯はうっすらと意識を取り戻す。病室には小野寺が座っており、すぐ横で宮島も顔を曇らせてこちらを見ている。二人とも言葉にはしないが、何が起きたかをはっきりと理解しているようだった。佐伯の頭の中には廃墟と化したあの街の光景が焼き付いている。一瞬でも確かに存在していた何百もの亡霊の嘆きが、今は静寂の中に溶け込んだように思えた。

 そして数日後。佐伯が自室に戻れるほど回復した頃には、街の封鎖はすっかり解除されていたという。表向きのニュースでは「都市開発計画の撤回と区域解放」とされ、亡霊のことはどこにも書かれていない。結局、あの大火災や行方不明者の真相を公にするか否か、佐伯は迷い続けていた。机の上には書きかけの原稿がある。表に出せば、自分の体験も含めて全てが暴かれるかもしれない。だが、果たしてそれは人々に受け入れられるのだろうか。

 佐伯はペンを握りしめたまま、静かに目を閉じる。心の奥から「ありがとう…」というあの微かな声がまだ聞こえる気がする。街が消え、亡霊たちの姿も失われた今、その光景が夢だったのか現実だったのかは誰にも分からない。それでも、あの夜明け前に繰り広げられた壮絶な光と闇は、確かに佐伯の心に痕跡を残していた。

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