亡霊の街 – 最終話

 やがて遠くで聞こえるのは、誰かが自分の名前を呼ぶ声だった。焦げ臭い匂いと土埃、そして冷たい風を微かに感じながら佐伯が目を開けると、そこには宮島と小野寺の顔があった。二人は放心状態の佐伯を支え起こし、あたりを見渡す。街の結界は完全に消え失せ、かつての亡霊の気配が跡形もなく消滅している。建物は大半が崩壊し、もはや人の住める状況ではなさそうだ。

 「お前、なんで……間に合ってよかった……!」

 宮島は息を切らしながら、震える声でそう言い、小野寺も必死に佐伯の体を支えている。どうやってここまで辿り着いたのかと問おうとするものの、声がうまく出ない。佐伯は朦朧としたまま、遠くから聞こえるサイレンの音をぼんやりと聞いていた。ほどなくして救助の手が伸び、佐伯はストレッチャーに乗せられる。救急車が待機していたのだろう。

 崩れた街並みを横目にしながら搬送される途中、佐伯はかすかに誰かの声を耳にした気がした。

 「ありがとう……」

 微風がささやくように、途切れ途切れの声が胸の奥を温かくする。振り返っても、もはやそこに亡霊の姿はない。ただ、周囲には灰色の瓦礫と廃墟と化した街だけが広がっていた。封鎖区域は形骸となり、その呪いの支配は完全に消え去ったらしい。

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