深海の叫び – 序章:深海への誘い 後編

数分後、船内に再び異常な信号が届いた。コンソール上に浮かび上がる不規則な波形と、低周波の響きが、まるで深海の底からの呼びかけのように感じられる。技術担当の一人が画面を指さして言った。「これを見てください。まるで、海そのものが何かを訴えているかのようです。」

ローレンスがその画面に近づき、独自の解析ツールを操作しながら詳細に観察した。「このパターンは、ただの気象異常では説明がつかない。古代の封印が何らかの影響を及ぼしているのかもしれません。まさに、自然の摂理を超えた現象です。」

斎藤はモニター越しに表示される数値をじっと見つめながら、慎重に意見を述べた。「もしこの嵐が予告するものが、我々の理解を超えたものであった場合、対策も常識では通用しないかもしれません。ただ、科学者としての私たちは、まず事実を追求し、そしてその事実をもとに対応策を講じる責任があります。」

その時、船内のスピーカーから突然、穏やかながらもどこか重い声が流れた。通信担当のスタッフが受信した音声は、明確な言葉ではないが、まるで遠い海中からの囁きのように感じられた。全員が一瞬、耳を疑うようにその音を聴いた。その声には、かすかな悲哀と、時を超えた何かが宿っているようであり、船内の緊張感はさらに一段と高まった。

中村は深い息をつきながら、視線を落としてつぶやいた。「この海は、私たちに対して何かを伝えようとしているのかもしれませんね。恐ろしいけれど、否応なくその声に引き込まれてしまいそうです。」

斎藤はすぐにその雰囲気を受け止め、皆が一刻も早く冷静さを取り戻せるよう、再び指示を出した。「皆、今回の異常信号について更に詳細な解析を進めると共に、外部との通信も確保してください。もし更なる異変が発生した際には、すぐに全員に連絡を取る体制を整えましょう。」

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