深海の叫び – 第4章:狂気の深化と恐怖の連鎖 後編

中村は静かに、しかし確かな声で報告を始めた。「北側セクターでは、隊員の心拍数が通常の1.5倍に急上昇しています。また、意識の混濁や軽い幻覚現象を訴える報告も複数上がっています。精神的なストレスの影響は、今や肉体的な異常にまで表れ出しており、私たちは即座に、各自の体調管理と精神ケアを徹底しなければなりません」

ある若い隊員が不安げに口を開いた。「斎藤さん、私たちはこのままでは、暴走する集団となり、全員が制御不能になってしまうのではないでしょうか。何か手立てはないのでしょうか?」その問いは、恐怖と共に、絶望をも感じさせるものだった。

斎藤は、その問いに対して厳しい表情で答えた。「暴走の可能性は否定できません。我々は、全てのセンサーと体調報告をリアルタイムで監視し、もしも精神的な異常が広がっていく兆候が見えた場合には、即座に、全隊員を安全な区域へ避難させ、緊急対策を実施する体制を整えます。我々の使命は、ただデータを集めるだけではなく、隊員一人ひとりの生命を守ることにもあります」

ローレンスは、再びモニターに向かいながら、低い声で語りかけた。「この現象は、単なる物理現象の連鎖ではなく、我々の心の中に潜む狂気そのものが、深海の圧力と絡み合って、暴走し始めているのです。古代の儀式に触発されたかのようなこの狂気が、もし全体に広がれば、取り返しのつかない事態になるでしょう」

中村は、隊員たちに向けてさらに呼びかけた。「皆さん、どうか焦らず、互いに気を配ってください。恐怖や不安に流されてはなりません。私たちは、科学的なデータと、各自の冷静な判断で、この異常現象を制御するのです。何か異変があれば、直ちに報告し、早急に対処する体制を強化しましょう」

艦載ドローンの映像は、さらに深海の暗闇の奥へと進むにつれて、奇妙な影と光が交錯する映像を映し出していた。その映像は、探査艇内のセンサーの数値と共に、次第に不穏なリズムを刻むかのように流れ、まるで生きた存在が集団として動き始めたかのような錯覚を呼び起こした。

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