深海の叫び – 第4章:狂気の深化と恐怖の連鎖 後編

中村は無言のうちに頷き、すでに周囲の隊員に向けて、慎重かつ毅然とした指示を発し始めた。「皆さん、深呼吸をして、互いの状態を確認してください。もしもの時には、すぐに通信してください。私たちは一丸となって、この不穏な現象に立ち向かわなければなりません」彼女の声は、隊員たちに安心感を与えると同時に、非常に現実的な対応策を示していた。

その直後、艦内のホールからも不穏な音が響き渡り始めた。暗闇の中、何かが動いている音、金属同士が擦れるような微かな騒音が、まるで見えない力が暴走しているかのように感じられた。技術担当の一人が慌てた声で報告した。「斎藤さん、こちらにも新たな映像データが届いています。深海の暗闇から、奇妙な形状の影が連続して現れ、一定のリズムで動いています。これが、最近のデータと同調しているようです」

斎藤は、映像をじっと見つめながら深くため息をつき、静かに答えた。「これは、ただの光の反射ではない。確実に、何かがこの空間で、あるいは私たちの内面にまで影響を及ぼしている。全てのデータを詳細に記録し、その正体を突き止めるのだ。今の状況は、我々の精神が暴走し始める前触れかもしれない」

ドクター・ローレンスは、再び手元のグラフを指差しながら情熱的に語りかけた。「皆、見てください。この周期的な波形は、まるで過去に行われた古代の儀式のリズムそのものを再現しています。もしこの狂気が、我々の潜在意識に眠る恐怖や記憶とリンクしているならば、それが次第に暴走する原因となっているのは明らかです。探査隊全体が、まるで一つの生き物のように暴走し始めているのです」

斎藤は、その言葉を聞きながら、再び全体会議を招集する決意を固めた。会議室に集まった隊員たちは、疲弊した表情で互いの顔を見つめ、普段は感じることのなかった恐怖と混乱が漂っていた。斎藤は、再確認のためにホログラムで映し出されたデータを背に、冷静だが深刻な口調で言った。「ここまでのデータが示すものは、我々が感じているその恐怖と、精神の崩壊が、単なる偶然ではないということです。これまでの現象が、連鎖する惨劇の一端であることを考えると、速やかな対策を講じる必要があります」

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