闇に潜む影

東京の片隅、山に囲まれた廃村へと足を踏み入れたのは、民俗学を学ぶ大学生、佐藤涼子だった。彼女は地方に伝わる神話や伝承に魅了されており、特に村で語り継がれる「影の伝説」に心を奪われていた。この伝説は、村がある日突然閉鎖された原因となった不可解で恐ろしい事件を語るものだ。伝説が本当に存在するのか、そしてその影には何が潜んでいるのかを確かめるため、涼子は友人たちと共に廃村を訪れることを決意した。

夏休みの昼下がり、太陽の光がパラパラと葉の隙間から漏れ、静かな廃村はどこか神秘的で不気味な雰囲気を放っていた。涼子たちが村に着くと、まず目に入ったのは、草に覆われた道と朽ち果てた家々だった。そこに立ちすくむようにして、長い間誰も訪れなかったことを感じさせる一軒の家があった。

「本当にここに来てよかったのかな……」友人の田中が不安そうに呟く。皆の視線がその家へ集まるが、涼子はその時、不思議な違和感を感じていた。この村には、何かが、あるいは誰かがいるような気がする。

彼女たちは村の中心にある古い神社を目指すことにした。道中、風が吹くたびに落ち葉が舞い上がり、周囲の静けさが一層の不安感を増幅させた。神社にたどり着くと、そこには石造りの鳥居と木々に覆われた本殿がそびえていた。涼子はその美しさに心を奪われつつも、胸の奥の不安が膨らんでいくのを感じた。

彼女たちは神社を探索し、天井から垂れ下がる古びたお守りや、石に彫られた文字に目を奪われた。しかし、まるでその場から放たれる「影」のような気配を感じつつ、「影の伝説」とはどんなものかを考えると、恐怖が胸を締めつける。

夜が迫るにつれ、涼子たちは村に怖いものが潜んでいることを肌で感じ始めた。それは自分たちを見つめるような視線であり、暗がりから迫る影だった。涼子はその不気味な体験の中で、今までとは違う直感を受け取ることに。

次の日、友人の一人、佐々木が忽然と姿を消した。前夜、彼女が神社を見学している途中で何かに驚いて逃げたのだ。それを追いかけたのが彼にとって最後の行動となってしまった。涼子は恐怖を抑え込みながらも、真実を知るために行動を起こす決意をする。

彼女は村の古文書を探し始めた。そこで見つけたのは、影の伝説に関する記述だった。「影」とは、村人が犯した罪の贖罪とも言われ、その影が村を見守る存在であるとされていた。しかし、贖罪を果たさない者には、影の呪いが降りかかるとも。

さらに調査を進めるにつれ、涼子は自分自身の過去にも思いを馳せるようになった。幼い頃、彼女は祖母から語られた恐ろしい話を思い出す。村が閉鎖される直前、何人もの村人が「影」に襲われたと聞かされていた。そんな話が、まさか自分の身に降りかかるとは。

涼子は神社に戻り、再びその影を感じようとした。すると、何かが彼女の近くで動くのを感じる。彼女は振り返り、目の前の空間が歪んでいくのを見る。影の中から、かすかな声が聞こえる。「助けて」と。その声は、即座に涼子を惹きつけ、彼女は無我夢中で声の方へと走っていった。

だが、影の正体はただの幻影でなく、恐怖そのものであった。友人の多くが姿を消し、残されたのは涼子ただ一人。彼女は村の中心で闇と対峙し、自らも影に取り込み込まれそうになる。

「私は、私の影を受け入れなければならないのか?」涼子は心の中で葛藤しながらも、影の中の真実を見る決意を固めた。影を乗り越えることで、彼女はすべての失われたものを取り戻すのか、あるいは全てを失うのか。

最終的に涼子は自らの運命を選ぶことになる。村の掟を知った彼女は自らも影となり、村を見守る存在になったのかもしれない。誰も知らない秘密を抱えたまま、彼女の運命は、絶望の中に希望が見え隠れするような形で終焉を迎えた。

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