闇の滞留

陰りの里。

東京から帰ってきた久美子は、見慣れたはずの村の風景が何か不気味で、暗い影が差し込んでいるように感じた。風が冷たく、肌に刺さるような感覚があり、彼女は自分がなぜ戻ってきたのか心の中で問い直した。祖母の遺産のためだけに戻ったこの場所は、子供の頃の楽しい思い出とは裏腹に、不安な予感を抱かせるものがあった。

特に、村に伝わる「影の者」の伝説が彼女の心を惑わせた。百年ごとに現れ、村を暗闇に包み込み、住民を一人ずつ取り去るという話。どこかで聞いたごまかしのような話だと思いながらも、久美子はその言葉が真実であるかのような感覚にとらわれていた。

ある晩、きっと好奇心を抑えきれなかったのだ。久美子は村の古い神社に足を運ぶ。

その神社は、彼女自身の子供の頃の遊び場だった。しかし、今の彼女の目には、奇妙な雰囲気と冷たい空気が漂っているように感じた。そしてその裏手には、長い間封印されていた古井戸があった。誰も近づこうとしない場所。何かがその中に潜んでいる気がして、久美子は恐ろしさよりも強い好奇心に駆られた。

井戸の縁に近づき、彼女は覗き込む。底は見えないほど深く、真っ暗だった。

その瞬間、冷たい風が井戸の深いところから吹き上がり、彼女の髪を乱した。そして、背筋を凍らせるような耳元での囁きが聞こえた。「来い、来い、戻れ……。」

その声は恐怖や警告、また何かの誘惑のように感じた。ほかの村人が近づいて来ない理由が、この声にあったのかもしれない。彼女の心は、疑念と恐れ、そして興味が交差する。

その後、村では更なる異変が起こり始めた。次々と人が姿を消していった。

久美子は、さまざまな出来事を通して、影の者の存在をはっきりと感じるようになった。目の前にいるのは悪霊か、あるいはただの伝説なのか?村を見守る暗い影に、彼女は気が気でなかった。何が起こるのか、これからどうなるのか。

村人たちはおびえ、誰もが次に消えるのは自分ではないかと怯えていた。女性、子供、そして突如として行方不明になった尾崎さん、その姿を知る人はいない。彼女の知り合いであったが、今はただの「影の者」の犠牲者だ。

その日、久美子は村の古老である竹内さんに出会った。彼は村の伝説について詳しく知っている人物で、彼の話を通じて久美子は村の歴史を知った。

「影の者は、村の源である井戸から生まれ、百年ごとにその力を増して、村に災厄をもたらす。」竹内さんはそう告げた。

その言葉が久美子の中で渦巻き、祖母の過去が影を落とす。

「あなたも、一族に巻き込まれているのだ。祖母様が果たせなかった運命を、あなたが背負うことになるかもしれない。」

竹内さんの言葉は、彼女を深い思索に誘った。村の運命、そして彼女自身の運命が結びついている。その根源を求める旅が始まる。久美子は、自身の家族に隠された過去の秘密に向き合うことを決意。

時は迫り、月は高く昇り、影の者は近づいてきている。久美子は再び神社へと足を運んだ。井戸の周囲には、押し寄せる恐怖が存在した。蔦や苔で覆われたその井戸は、ただの井戸ではない。彼女が知るはずの、過去の影が集約されているかのような気がした。

井戸を覗くと、今度は声は聞こえなかった。しかし、底の暗さから視線を感じる。

「お前は私の一部だ。」そのひそやかな言葉が、何かを強く引き寄せてきたように思えた。久美子は目を閉じ、呼吸を整える。

次第に、寒さが体を包み込む。この瞬間、彼女は全てを受け入れる覚悟が必要だと気づいた。影の者は取り込むもの、そしておそらく彼女の運命も、その流れの一部なのだ。

何が待ち受けているのか、何を選び取るのか。久美子はこの村での運命を解く鍵を見つけるため、行動を起こさなければならないことを悟る。そしてその背後には、多くの影が潜んでいた。

闇の中の真実が、彼女を呼んでいた。彼女はその恐怖を受け入れ、一歩を踏み出す。

タイトルとURLをコピーしました