和菓子の灯がともるとき – 12月29日 前編

小さく独りごちて、ふと視線を上げると、商店街組合の掲示板が目に留まった。年末のいろいろな告知が貼られているはずだが、由香の目に飛び込んできたのは、「大晦日のカウントダウン・イベント中止のお知らせ」という紙。毎年こぢんまりとしたステージを作って、お店の人や地元住民たちが集まり、年越しそばを食べたり、ちょっとした催しを楽しんだりしていたあのイベントまでもが中止になるとは…。ショックを受けると同時に、「やっぱり人が集まらなくなったんだろうな」と落胆が募る。

掲示板の前で佇んでいると、通りすがりの男性が「今年はお金も人手も足りなくてねえ…」とひそひそ話すのが聞こえた。そうした声を聴くと、ますますこの街全体が活気を失いつつあることを実感する。由香は少し暗い気持ちを抱えながらも、とりあえず母に頼まれた買い物を済ませるべく商店街の奥へと足を運んだ。

昔から営業している八百屋や肉屋はかろうじて開いており、顔なじみのおじさんやおばさんが何とか店を切り盛りしている。だが客足は鈍く、年末の賑わいとは程遠い。「こんなに静かなのって、いつからだったんだろう。私が都会に出てる間に、どんどん変わってしまったのかな」と考えていると、突然後ろから「おや、夏目堂の娘さんじゃないかい?」と声をかけられた。

振り返ると、そこには白髪の老婦人が立っていた。ちょっと猫背気味で小柄だが、目がとても元気そうだ。よく見ると、幼い頃に店を手伝っていた時期に何度も顔を合わせた常連客の人だった。「あ、こんにちは。ご無沙汰してます…」と由香が挨拶をすると、老婦人は「こんなところで会うなんて奇遇だねえ。夏目堂はどうなってるのかと思ってたよ。最近ずっと閉まったままじゃないかい」と気さくに話しかけてくる。

タイトルとURLをコピーしました