和菓子の灯がともるとき – 12月29日 前編

「父が体調を崩して入院しちゃってて、実はしばらく店を休業していたんです。ごめんなさいね、せっかく来てくださってたのに…」と由香が頭を下げると、老婦人は「いやいや、謝ることないよ。お父さん、大丈夫かい? あたしはあそこの最中が大好物でね、毎年楽しみにしてたんだよ」と励ますように微笑む。その言葉を受けて、由香は胸がじんと熱くなった。今の夏目堂には、到底お菓子を売る体制なんて整っていない。けれど、こうやって待っていてくれる人が本当にいるのだと改めて感じられた瞬間だった。

「父が元気になったら、また店を再開したいと思ってます。そのときはぜひ買いに来てくださいね」と由香が言うと、老婦人は「もちろん行くさ。あんたたちの和菓子が一番口に合うんだから」と笑顔を見せ、「寒いから風邪ひかないでおくれよ」と言い残して、また足早に通りを歩き去っていった。その背中を見送りながら、由香は「いつか再開できたら、ああいうお客さんがまた来てくれるんだな」と希望を抱いた。

買い物袋を手にしながら歩を進めていると、ちょうど商店街組合の担当者が小さな事務所の前を掃いているところに出くわした。顔を知っている相手だったので、「お久しぶりです」と挨拶すると、「おや、夏目堂の由香ちゃんか。久しぶりだねえ。今は帰省中かい?」と声をかけられる。商店街全体の惨状を目にしていた由香は、思わず「ずいぶんと人も減りましたね…。カウントダウンイベントも中止って、掲示板で見ました」と切り出した。

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