和菓子の灯がともるとき – 01月02日 前編

「でも、お父さんが倒れた原因だって過労とかストレスとか、そういうのもあるんじゃない? もし私やお母さんがちゃんと支えていたら、こんなことにはならなかったのかもって思うの」

声を低くしてそう切り出すと、父は首を振って「違う違う。長年の不摂生や、要領の悪さが招いただけだよ。家族のせいじゃない」とやんわり諭す。続けて、「店は置いておいてもいいんじゃないか。無理をして続ける必要はないんだよ」と穏やかに言う。その言葉が信じられないわけではないが、店を再開したい気持ちがまったくないとも思えない。由香は複雑な思いを抱きながら、「無理をしないって、どういう意味?」と問いかける。

「そこまで気負うなってことさ。お母さんも言うだろうけど、俺たちはもう年だし、身体のことが一番。由香を巻き込んでまで店を存続させようとは思ってない。和菓子は好きだし、お客さんのためにも続けたい気持ちはあるけど……お前に負担をかけるのは違うと思うんだ」

父はまるで大切にしてきたものを手放すような寂しそうな表情を浮かべていたが、一方で「子どもの人生に口出しはできない」と、自分を納得させるかのようでもあった。

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