そのとき、ちょうど洗い物を終えた母が戻ってきた。「何の話してるの？」と尋ねるので、由香は「店をどうするかって話。お母さんはどう思ってるの？」と率直に聞いてみる。母・祥子は少し言いづらそうにうつむきつつ、「私も正直、お父さんの身体が一番心配。店の再開で、またお父さんに負担がかかったら意味がないから……」と本音を漏らす。そして、「由香にまで苦労をかけたくないのよ。都会の仕事、順調なんでしょ？」と続けた。由香が「まあ……仕事はそれなりに忙しいし、やりがいもあるけど、それがすべてじゃないって思えてきた」と言うと、母は「でも、あなたの人生よ。私たちのせいで道を狭めるようなことはしたくないの」と繰り返す。
「だけど……もう一度、家族みんなでこの店を立て直す選択肢だってあると思うの。お父さんの病気が完全に治るには時間がかかるかもしれないけど、私だって今回帰省してみて、和菓子に対するお客さんの思いを感じた。おばあちゃんがおいしいって言ってくれたり、イベントでみんなが喜んでくれたり……やれることはまだまだあるんじゃないかな」
そう熱弁する由香に対し、父と母は「それはありがたいけどね……」「気持ちは嬉しいのよ」と口をそろえるも、結局は「由香がやりたいことを優先しろ」という言葉に落ち着く。父も「俺が死んだ後に店を継ぐっていうならわかるが、今はまだお前が若いんだ。いろんな可能性を捨てることない」と諭すように言った。
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