前編 後編
降りしきる雨の音とともに相馬祐一は村の門をくぐった。遠くから見ると、古びた門はただの木材の組み合わせに見えたが、近くで見ると、その上部には古代の神々を象った彫刻が見受けられた。これは、いくつもの伝説と神秘が絡まり合う小さな村、糸神村への入り口だった。
相馬の目的は一つ、村で発生し続けている連続神秘死事件の真相を解き明かすことだった。それぞれの事件で、若い女性が一人で夜道を歩いていると、突然死んでしまうというものだ。最初はただの事故か病気と考えられていたが、数が増えるにつれて村人たちは神の怒りだとささやき始めた。さらに不可解なことに、それぞれの死体の隣には赤い糸が残されていた。
東京の名探偵として名を馳せている相馬にとって、この事件はいつもの殺人事件とは一味違っていた。事件の背後には、昔からの伝説や独特の信仰が絡んでおり、ただの推理だけでは解明できない要素が含まれていた。
彼の足元には濡れた土から生える草花がざわめいていた。雨の匂いが鼻を突き、村の佇まいは静寂と混ざり合った荒涼とした雰囲気を醸し出していた。夜の闇が深まり、見通しが悪くなると、村の小道はまるで未知の森へと続く迷路のようだった。
相馬は宿泊先の旅館に向かう途中で、突然現れた老女に道を尋ねられた。彼女は村の長老で、村の歴史や伝説を語る存在だった。彼女の話によれば、この村には昔から「赤い糸の呪い」が存在したという。若い女性が一人で夜道を歩くと、神の怒りを買って祟られるというものだ。そして、その証として赤い糸が残されるのだという。相馬は眉をひそめたが、それが事件の手がかりとなる可能性もあるため、話を聞き進めた。
村の長老が話す呪いや神々の伝説を聞きながら、相馬は神秘的な事件に対する新たな視点を得た。そこには人間の理性では説明できないような、神秘的な要素が溢れていた。それが真実かどうかは分からなかったが、それらが村人たちの心理にどのような影響を与え、結果的に事件に絡んでいる可能性はあると感じた。
相馬は村での初日を終え、明日からの調査に備えて旅館の部屋で一人思索にふけった。彼の前には赤い糸が敷き詰められた事件のファイルが広がっていた。その糸をたどることで、真実が見えてくるはずだと信じて。しかし、その糸は深い闇へと続き、彼自身が犯罪のターゲットになることを予感させるほどの恐怖を感じさせた。
この赤い糸の連鎖は、どこに繋がっているのだろうか。村の伝説は真実を語っているのだろうか。それとも、別の何かが隠されているのだろうか。真実を知るためには、彼自身がその糸を手に取り、追い求めるしかない。しかし、その先に何が待ち構えているかは、誰にも分からない。
こうして、相馬祐一の村での調査が始まった。赤い糸の意味、そしてそれが連続殺人事件とどう関係しているのか。この神秘的な謎を解き明かすために、彼は村の過去を掘り下げ、事実を明らかにする決意を新たにした。そして、次の日が待ち遠しく、眠ることはなかった。相馬の心中は、早く事件を解決し、この村を恐怖から解放することでいっぱいだった。