夜明けのペンダント – 第2章: 第1話

序章:第1話第2話 第1章:第1話第2話 第2章:第1話|第2話

秋の冷たい風が吹き抜ける午後、秋山玲は白浜町立図書館の閉架書庫へと足を踏み入れた。長い廊下の先に重厚な扉があり、鍵を開け放たれた先には埃をかぶった古書が並んでいる。古書管理官の橋本(はしもと)が小声で挨拶をする。

「探偵さん、ここは許可なく立ち入ると大変ですから。今日は特例ですので、ご自由にご覧ください」

「ありがとう。『白浜郷土誌』と松永家関係の文書が見たいんだ」

玲は丁寧に棚から一冊ずつ引き出し、机の上に重ねていく。最上段の古びた革装丁には「大正十五年/郷土誌」と書かれ、開くと細かい筆致で町の歴史や伝承が記されていた。ページをめくるたびに、100年前の写真や切り抜きが挟まっている。

「……これか」

玲はペンライトを使い、文字に書き込まれた「黎明の儀式」「代償」「血塗られた願い」という見出しを探り当てる。墨がにじんだ走り書きには、「ペンダントは希望と同時に命を喰らう」「代々の血を紡ぐ鎖」という言葉が繰り返されていた。

ふと、古写真の裏に貼られた小さな付箋に目を留める。そこには「松永譲治自筆 昭和三年」と書かれ、松永家初代当主が研究と儀式を繰り返した証拠とみられる。玲はスマートフォンで撮影しながら、メモを取った。

タイトルとURLをコピーしました