影の季節 – 第1話

予兆

樹の日常は村の静寂の中に溶け込んでいった。散歩の途中、彼は度々山の中や森の中で素敵な風景を見つけては、キャンバスにその情景を写し取っていた。

そんな日々の中で、彼は雪乃という美しい女性との出会いを果たす。彼女は、長い黒髪を風になびかせながら、湖のほとりで水面を眺めていた。その姿はあまりにも儚く、彼女自体が風景の一部のように見えた。樹は、彼女に声をかける勇気を振り絾り、モデルとしての協力を頼んだ。

雪乃は少し驚いた表情をしたものの、笑顔で快諾してくれた。それから、樹は雪乃をモデルにして、彼女の姿を様々な風景の中に描き始めた。湖のほとり、深い森の中、山の頂上… どの絵も彼女の美しさを引き立てていた。

しかし、ある夜、樹が雪乃を描いていると、彼の描いた絵の背景に異変が起きた。本来、彼が描いた記憶のない深い影が、絵の隅から徐々に広がっていった。その影は人の姿を思わせるような形をしており、ゆっくりと雪乃の方へと迫っているように見えた。



樹は筆を落とし、絵をじっと見つめた。何度も目を疑い、絵の具やキャンバスに問題がないか確認したが、何も異常は見当たらなかった。頭を冷やすため、彼は外に出て深呼吸をした。

その夜、樹は特異な夢を見た。彼は一人、濃い霧に包まれた場所を歩いていた。前方から微かな声が聞こえてきた。足を進めると、霧の中から失踪したと言われている若い女性たちが現れ、儚げな音楽に合わせて踊っているのが見えた。中央には雪乃がいて、彼女は何かを告げるように樹の方を指さしていた。

夢の中の樹は、恐怖よりも好奇心に駆られ、女性たちの踊る輪の中心へと進んでいった。だが、彼が中央に辿り着く前に、突如として激しい風が吹き始め、夢の景色は白く消えていった。

目を覚ました樹は、汗で全身が濡れていた。彼は夢の中で感じた不安や恐怖を振り払い、再び絵の前に座った。しかし、絵に描かれていた影は消えていて、代わりに彼の記憶の中の美しい雪乃の姿が描かれていた。

この事件は、樹にとって次の章への前触れとなる。彼はまだ知らないが、この村の深い闇と向き合うことになる。

タイトルとURLをコピーしました