影の季節 – 第1話

新たな風景

風が山を撫でるように吹き抜けていた。赤く染まり始めた夕暮れの空が、山々のシルエットとともに美しい風景を描いていた。この景色は、樹が目にしたことがないものだった。彼は都会の喧騒を逃れて、自然の中での新たなインスピレーションを求めて山間の村へやってきた。

樹は一息つきながら、その風景を眺めていた。夕暮れ時の山間の村は、絵の具とキャンバスだけでなく、彼の心まで染め上げるような美しさだった。彼は即座にキャンバスと筆を取り出し、この景色を描き始めた。描きながら、彼はこの村での生活を強く願うようになった。

彼の筆がキャンバスに触れる度、新しい景色が生まれていった。それは彼自身の心の中にも新しい風景を作り出していた。

村の中心には小さな広場があり、子どもたちが笑い声を響かせて遊んでいた。彼らの無邪気な姿に微笑む樹。しかし、彼の目には村人たちの暮らしの中に、微かな影が見え隠れしていた。



翌日、樹は村の食堂で昼食を取っていた。隣のテーブルに座っていた老人たちが、低い声で何かを話している。彼らの話題は、毎年冬の特定の日に村の若い女性が失踪するという、村の伝説についてだった。樹はそれを都市伝説のようなものとして一瞬流してしまったが、老人たちの顔色と態度、そして周りの村人たちの耳を澄ませる様子から、その話には何らかの真実が隠されていることを感じ取った。

彼は興味本位で、食堂の店主にその伝説について聞いてみることにした。「あの、さっきの話、本当なんですか?」と樹が尋ねると、店主は一瞬、言葉を失った。そして、深く息を吸い込んで、「昔からの話だよ。でも、実際に毎年、若い女性が行方不明になるんだ。警察も何もかも調べたけど、全く手がかりがない。それがこの村の、不吉な伝説さ」と語った。

樹はその話を聞いて、一瞬の戸惑いを覚えながらも、この村の風景や人々、そしてこの不可解な伝説に、さらに引き込まれていく気持ちを感じた。彼は、ここでの滞在を延ばし、この伝説の背景に隠された真実を、彼自身の絵を通して描き出すことを決意した。

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