「死因は転落とのことだが、足跡と蹴り跡を見る限り、他殺の線もある」
玲は崖の縁へ向かい、草むらに隠れた小石を除けた。その下には、潮汐の時間帯とも合わない不自然な踏み跡と、かすかに鉄のような匂いを含む血痕が残っていた。
「辰巳さんは儀式の名簿に名前があったとはいえ、宝石商。本来なら儀式とは無縁のはず。ただ、彼は何かを知ってしまった——それを阻止されたのかもしれない」
玲の声に高橋が小さく息を飲む。
「漁師組合の一員が最後に辰巳さんと話していたと、目撃証言がありました。組合長、田辺剛さんに聞き取りを……」
航がスマートフォンでメモを確認する。玲は頷き、港を後に漁師組合事務所へ足を向けた。
***
漁師組合事務所の応接室は、漁網や浮き玉が無造作に置かれ、港町の素朴さが色濃い。組合長・田辺剛(たなべ つよし、53歳)は、厚い眉間のしわを深く刻みながら二人を迎えた。
「何の用だ? うちの名を出すとは、生意気だな」
田辺は腕時計をチラリと見ながら、応接テーブルに両肘をつく。玲は名乗りを再度告げ、要件を簡潔に伝える。
「星ノ宮辰巳氏が昨夜、こちらの組合関係者と接触した後に行方不明となり、今朝転落死で発見されました。足跡や蹴り跡の状況から他殺の疑いがあります。最後にお話された内容をお聞かせください」
田辺は喉を鳴らし、視線を落としたまま言葉を選ぶ。
「辰巳か……あいつは頼まれて貸しを作ってただけだ。ペンダント株がどうのなんて、関係ねえ。儀式だか何だか知らねえが、借金取りに追われて逃げ回ってただけだ」
玲は眉を寄せ、手帳にメモを取る。



















