異世界農業革命 – 第1話

 するとドルトの表情が僅かに和らぎ、輝きを帯びたように見えた。「そうか。ここには長く生きてきた俺や村の者でもわからんことが多い。とにかく土地が痩せてしまって、何を育てても枯れていくんだ。いくら畑を耕しても、一向に実りが増えない。若いもんが狩りに出ても、そううまくは食料を得られんしな……。」

 そこへ、少し年配の女性が台所から顔を出す。「ドルト様、今日はもうお客さまにはお出しできるようなものがなくて……。」

 声に申し訳なさがにじむ。実際、村には食糧がほとんど残っていないようだ。

 一樹はそんなやりとりを聞きながら、部屋の窓から外の畑を覗いた。雨が少ないのだろうか。土は粉のように乾いているし、草も枯れている。だが、一番の原因は単なる雨不足や土地の疲弊だけではなさそうだ。どこか得体の知れない“不自然な痩せ方”だと直感する。まるで見えない力が土壌から栄養を奪っているような、何とも言えない違和感がある。

 そんな疑問を抱えていると、ドルトがゆっくりと口を開いた。「近年、魔力の枯渇が進んでいるんだ。この村は昔、“豊穣の地”と呼ばれたほど作物がよく育った。ところが、いつの頃からか土地の魔力が衰えて、今では作物どころか木々すら枯れ果ててしまう。我々も何度か外の街へ行って対策を尋ねたが、どこも同じように苦しんでいるところが多くてね……。」

「魔力が枯渇……ですか?」

 一樹はその言葉に強い興味を覚えた。自分のいた世界に“魔力”などという概念はなかったが、ここではどうやら当たり前のように存在するらしい。その魔力が薄れていることによって土壌が痩せるというなら、一樹が知る植物学や土壌学の知識だけでは対処しきれない新たな問題を抱えているということだ。

「確かに、普通の土壌とは違う現象が起きているような気がします。もし良ければ、実際に畑を見せてもらえませんか?」

 そう申し出ると、ドルトは表情を明るくして頷いた。「もちろん、構わんよ。今、この村にとって最も必要なのは食べ物だが、そのために畑がどうにかならないと始まらないからな。おまえさんが何かの手がかりを見つけてくれたら……いや、期待しすぎても悪いが、どうか少しでも助けになってくれればありがたい。」

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