異世界農業革命 – 第1話

 老婆は一樹を村の中心まで案内しようとするが、道中ですれ違う村人たちの表情はどれも暗い。子どもたちは痩せこけ、年配の者は疲れ果て、若者ですら活気のなさが目立つ。何より、作物不足が深刻なようで、小さな桶に入った貧相な野菜の山がぽつんと道端に置かれている光景に、一樹は胸が痛んだ。

「見ての通り、ここにはほとんど何もないよ。昔はもう少し作物が育ったんだけど、ここ数年でまるきりダメになっちゃってね。村の長老がこの事態を何とかしようと奔走しているけど、私たちにもどうしようもないんだ……。」

 老婆の言葉には、諦めの色がにじんでいる。一樹は気づかれないように拳を握りしめた。

 村の中心にある広場に着くと、粗末な木造の建物がいくつか並んでおり、そのうちの一つは村長の家だという。老婆が戸を叩くと、中から落ち着いた声が返ってくる。「はい、どちらさまかな?」

 現れたのは小柄な初老の男性で、深い皺に刻まれた表情から、人を包み込むような温かさが感じられる。老婆が事情を簡単に説明すると、男性――この村の長老役も兼ねている村長が、一樹を中へ招いた。「まあまあ、こんな辺境の地へようこそ。俺はこのエル・リーフ村をまとめているドルトという者だ。少し話を聞かせてもらえないかね?」

 一樹はどこから話せばいいのか迷ったが、最も大事な「農業知識があるかもしれない」という点だけは伝えようと思った。ただ、自分がこの世界に来た経緯や、元々の世界のことを話したところで信じてもらえるのかどうか疑問だった。そこで、無人農業システムという専門的な内容は伏せつつも、土壌や作物改良について研究していたという事実だけをやんわりと伝える。「少しだけですが、農業に関して詳しいんです。実際に収穫に結びつけられるかはわかりませんけど、何かお力になれればと……。」

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