異世界冒険者ギルドの日常 – 第4章:後編

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 監査院の非常ベルがけたたましく鳴り続けるまま、私たちは応接室の破損を最小限に抑えつつ、マリエル監査官の指示で地下通路へ移動した。

 瓦礫を踏むたび、帳簿の束が胸板に食い込む。だが重さより、そこに刻まれた数字の真実が私の背中を押していた。

 地下通路は、王都上層部だけが知る“非常監査動線”。壁一面に魔力吸収紋が刻まれ、外部からの追跡術式を遮断している。マリエルは眼鏡越しに私を見据えた。

「転送データは中枢炉に格納された。だが説得力を増すには現物の帳簿が要る。王国会計評議会が開く午前十時までに、大法廷へ持ち込むわよ」

 時計は八時十七分。残り百三分。

「審理開始までは二重結界が張られ、内部者でも簡単には入れないはずでは?」

「灰色宰相は“議会宣言”の特権で、第四課の連中を審理席へ潜り込ませようとしている。私が押し返すには公認補佐官の同伴が要るの」

 彼女は鞄から真紅の腕章を取り出し、私の袖口へ強引に巻きつけた。《臨時監査補佐官》と金糸で縫い込まれている。

「窓口係が補佐官って、肩書き過積載じゃない?」

 リリィがぼそりと呟くが、私は笑うしかない。

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