エピソード:1
陽斗は、森の奥深くへと一人歩みを進めていた。前回、目覚めた時のあの神秘的な体験が、今もなお彼の心に深い余韻を残していた。足取りは重く、しかしどこか引かれるように、見知らぬ森の風景に心を奪われながら歩いていた。木漏れ日が柔らかく彼の肩を撫で、遠くからは鳥たちのさえずりが響いていた。しかし、その静寂は突如として破られることになる。
ふと、遠くの茂みから不穏な気配が漂ってきた。陽斗は立ち止まり、耳を澄ませる。そこには、普段の自然のざわめきとは異なる、荒々しい獣の咆哮が混じっていた。心臓が高鳴り、彼の内側から不安と緊張が溢れ出すのを感じた。
「……何だ、この音は?」
陽斗は低く呟きながら、茂みに近づいて行く。すると、視界の端に、鋭い牙と鋭利な爪を持つ魔獣たちの影がちらついた。小規模な群れであるが、その存在感は明らかに凶悪なものだった。魔獣たちは、不規則な動きで森の中を駆け巡り、こちらに向かって鋭い目を光らせていた。
突然、一匹の魔獣が大きく吠えながら、陽斗に向かって猛然と飛びかかってきた。その瞬間、彼の体は自然の摂理を超えた反応を示した。何かが彼の内側で、長い間眠っていたものが解放されるかのように、静かだったはずの空気が一変した。目の前の空間が、まるで水面に波紋が広がるように歪み始めたのだ。
「な、なにが……!」
陽斗は思わず叫んだ。彼の視界は急激に変わり、周囲の景色が溶けるように揺れ動く。魔獣たちはその異変に驚き、動きが一瞬途絶える。まるで、彼ら自身の存在が信じられないかのように、足がすくんだかのようだった。陽斗は、己の胸に秘められていたこの新たな力の存在に、初めて直面したのだ。
「これが……領域能力……?」