陽斗は、先日の森での異様な出来事を胸に抱えながら、ゆっくりと足を進めた。森を抜けると、遠くに薄明かりの中で小さな村の輪郭が浮かび上がった。村はまるで静寂に包まれた楽園のように見えたが、近づくにつれ、その表情に不穏な影が差し込んでいることに気付いた。
村の入口付近では、焦りと混乱が渦巻いていた。何やら大きな叫び声と共に、村人たちが必死に身を守ろうとしている様子がうかがえた。陽斗は、かつて自分が感じた力の覚醒が、また何かに使われる運命にあるのではないかという直感に駆られ、急いでその現場に向かった。
村の中心に到達すると、そこには数匹の凶暴な魔獣が、家々を蹂躙しながら村人たちに襲いかかっていた。木造の家屋は炎に包まれ、叫び声と金属のぶつかる音が混じる中、絶望感すら漂っていた。
「待って！ 助けに行く！」
陽斗は自分の胸に湧き上がる力を感じながら、躊躇なく駆け寄った。彼の心は、あの日森で目覚めた不思議な感覚を思い出させ、何故かこの場で自分が戦わなければならないと強く感じさせた。
その瞬間、彼の体内でまたもや、あの不可思議な力が渦巻いた。彼の周囲の空間が、まるで意志を持つかのように歪み、魔獣たちは一瞬の間、動きを止めた。
「くっ……」
一匹の魔獣が、激しい咆哮をあげながら陽斗に襲いかかってきた。しかし、彼の手が空中に軽くかざされると、まるでその場で空気が砕けるかのような感覚と共に、魔獣は一斉に混乱し、周囲に散り散りになった。村人たちは驚愕し、そしてその光景に救いの手が差し伸べられたことに、涙ながらに歓喜した。
