異世界冒険者ギルドの日常 – 第1章:前編

「ご不便をおかけし申し訳ございません。原因をただちに確認し――」

 言葉と同時に〈エクスセル〉が帳簿を照合。報酬金袋は確かに用意済みだったが、倉庫担当の捺印が漏れていただけと判明した。

「こちらの不備で手続きが滞っておりました。至急チェックを通し、お待たせ分として利息銀貨三枚を上乗せいたします」

 隊長は拍子抜けした顔で銀貨を掴み、肩をすくめる。

「……次も頼むぜ、新入り」

 荒くれ者の背中が去ると、支部内から小さな拍手が起こった。

「見事ね、ユウト」

 クラリスが微笑む。

「受付は戦場。けれどあなたなら守り抜けるでしょう」

 胸の奥に灯った静かな火。自分はもう“使い潰される歯車”ではない――誰かの役に立つ歯車になれる。

 窓口越しに差し出された新しい冒険依頼票の山を見つめ、悠斗は深く息を吸った。

「さあ、次のお客様をお迎えしましょう」

 異世界での第一日目が、ようやく本当の意味で始まった。

第1章: 前編|後編

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