異世界冒険者ギルドの日常 – 第1章:前編

 朝露の匂いと馬車の揺れに目を覚ます。

 転生先はトリスという田舎町の冒険者ギルド支部。石畳の広場に面した二階建て木造建築で、看板には逆三角形の紋章が掲げられている。

「ようこそ! 今日から新任の受付さんですね?」

 正面カウンターで出迎えたのは、やわらかな金髪を結った女性――支部長クラリスだった。年齢不詳の美貌に、ほほえみは春風のよう。

「荷物はこちらで預かります。まずは制服をどうぞ」

 差し出されたのは濃緑のベストと白シャツ。袖を通した瞬間、背筋が伸びる。ネームプレートには《ユウト》と刻まれていた。

「本日は窓口B番を担当していただきますね。質問があれば私か先輩受付のセルマに」

 セルマ――小柄な猫耳獣人の女性がひょこり手を振った。

「よろしくにゃ。書類山盛りだけど焦らないでね」

 山盛り? 視線をずらせば、背後の書架には革表紙のファイルがぎっしり。前世の会社で見慣れた“未処理案件”の山に似て、汗がじわり。

 けれど今回は残業代が出る。たぶん。いざとなれば魔法だって――そう思うと不思議とワクワクした。

「まずは素材納品の計量からお願い」

 カウンターに並ぶ新人冒険者たち。獲れたてのゴブリンの耳や薬草束をドサッと置き、報酬と交換していく。耳の臭気と土の香りが混ざり、異世界らしさ満点。

(数量と品質を入力、単価掛けて――あれ? 単価表はどこ……)

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