「重ね着は慣れてるさ。帳簿と責任で背中はもう満員だ」
通路を出ると、白大理石の回廊へ繋がった。だが天井のステンドグラスから射す光が、嫌な色を帯びて揺らいでいる。魔力干渉――外で結界が破られた証拠だ。
案の定、行く手を影衛兵より上位の灰装束が塞いだ。面布に「GD」刻印、肩章は二本線。第四課副長クラス。
「会計評議会へ向かう女子供にしては荷が重いな。その帳簿、宰相閣下がご所望だ」
「なら正式な令状を持って来てください」
私が腕章を押さえると、敵は嘲るように両手を広げた。
「臨時補佐官風情に通じると思うか?」
言葉と同時、彼の足元の影が伸びて槍状に盛り上がる。爆ぜるように飛び散る黒炎。ティリアが素早く矢を二射放つが、影の壁が吸収し弾き返す。
「影質操作魔法 “ダスク・フォージ” だ!」
マリエルが舌打ちし、壁際の魔力遮断板へ手を伸ばしたが、一足遅い。副長の影が床一面に広がり、広間全体が揺らぐ。
私は《エクスセル》を展開。魔力密度マトリクスを三次元プロットし、影の核座標を割り出す。
「中心は右手掌の刻印! そこを破壊すれば影は崩れる!」
ガルドが一歩踏み込み、剣を振りかざす。しかし影の棘が床から噴き出し、足を絡め取る。
「――数は正しいけど、届かないなら無意味だろ?」
副長が嗤う。


















