異世界冒険者ギルドの日常 – 第5章:後編

「黒字を喜ぶのは経営者だけ。監査は“適正分配”を求める――というわけで、配当金を支給しよう」

 セルに“臨時配当率100%”を記載し、小判列を強制的に債権へ変換。すると硬貨の刃は光を失い、束の間だが“支給待ち”の紙切れに戻る。

 そこへガルドが突っ込み、大剣の一薙ぎで紙束を吹き飛ばす。

 リリィは床に残った小判を掴み、カタパルトのカウンターウェイトとして装填した。

「再利用、再利用っと!」

 〈シグマ〉の一人が眉をひそめ、足元を影へ変える。

「転換ロスは経費扱いか? なら追加予算だ!」

 彼は外套の内側から黒水晶のカードを抜き、空中へ投げる。

 ――黒水晶、《帝国歳入庁》と刻印。隣国の国璽付き!

「国境を越えて粉飾だって!?」

 マリエルが蒼ざめる。

 カードの背面から流れ込む魔力は、王国法の制限外。瞬く間に回廊を塗り替え、私のセルがエラーで真紅に染まり始めた。

「外国資金は評価基準外! フレームワークが壊されると数字が読めない!」

 ティリアの矢が黒水晶に当たるが、弾かれ高く跳ねた。

 私は歯を食いしばり、転送ログの奥に仕込んでおいた“互換アドオン”を《エクスセル》へロードした。

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