異世界冒険者ギルドの日常 – 第5章:後編

 ゼロの鎖は“∞”の文字を核に持ち、分割総量が無制限に見えた。

(無限予算……!)

 全身が凍りつきそうになるが、脳裏に浮かぶのは窓口で慌てる新人冒険者を支えた無数の“日報”。

 ――数字は必ず有限。窓口の締めは必ず来る。

 私は拳を握り、セルにただ一つの関数を書き込む。

 =IF(∞,1,0)

 無限を真偽で評価すれば、自働セルは“1”と“有限”に置き換える。

 鎖の桁が一瞬揺らぎ、∞の記号が“1,000,000,000”へ膨張――

「有限化完了、課税率100%!」

 私は“超過利得税”をセルへ入力。鎖の数字は真紅に変わり、乱雑な計とともに崩れ落ちる。

 ゼロの仮面の奥で瞳が細まる。

「面白い。では次は“債務不履行”を味わえ」

 空気が震え、大法廷ドーム全体が暗転した。

 残り十二分。

 黄金扉はまだ開いていない。だが数字は、必ず締めを迎える。

 私は息を整え、仲間たちに頷いた。

「ここが本当の総決算だ。帳簿を片手に――窓口係は最後まで諦めない!」

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