異世界冒険者ギルドの日常 – 第10章:後編

 檀上では“日替わり定食隊”をはじめ、前夜の湖底と祭壇防衛に貢献した人々が紹介されていた。ティリアは桜色チェインメイルのケープをなびかせ、ガルドは燕尾を正し、リリィはギアカフスを誇らしげに磨き上げる。

 そこへ世界樹祭委員長が現れ、最後の儀式――“芽吹きの歳計”を告げた。祭壇炉心へ世界樹貨の小袋を投じ、大陸全土へ繁栄を還元する神事だ。

 しかし投じられる貨幣は、今年だけ“透明の樹脂製チップ”に置き換えられていた。鋳造量はゼロ、価値は“感謝ポイント”として計上。ロジェ補佐官が壇上で解説する。

 「魔力と直接交換しない、いわば“数字の種子”。収穫は翌年の正決算で初めて花開く――未実現でも価値を約束できる、新しい会計の芽です」

 ユウトはロジェの側へ歩み寄り、小声で耳打ちした。

 「君が提案したのか?」

 「いえ、あなたの“未実現課税”を見てひらめいた人がいて。私はただ式を整えただけです」

 式──それはマリエル監査官だった。観覧席で目が合うと、彼女は眼鏡越しにそっとウインクした。

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