異世界冒険者ギルドの日常 – 第10章:後編

 午後、湖上では“決算パレード”が始まり、ギルド本部の決算書を模した大船が水面を滑る。帳簿型の巨大帆には“収益=笑顔×挑戦”の標語。その船首デッキへゲストとして招かれたユウトは、子どもたちの歓声に手を振りながら、計算石を掲げた。

 計算石の画面には世界樹の現在残高と、先ほど投じられた透明チップの数がリアルタイムで増えていくグラフ。

 「今年の黒字は子ども達の未来に繰り延べします!」

 アナウンスが響き渡り、湖面に紙花が舞った。

 夕刻、浮き桟橋の裏手。

 ティリアが弓を外し長椅子に腰かけると、ユウトは隣に座った。

 「やっと人込みから解放されたね」

 「数字の森より賑やかだったわ」

 頬を染める彼女へ、ユウトは小さな封筒を差し出した。“手形”のように見えたが、裏には数字ではなく一枚の短歌。

 矢羽根の 震えおさめて 帳を閉じ

  笑顔で結ぶ 春の決算

 「……これは?」

 「君の矢で何度も危機を越えられた。僕からの“感謝ポイント”」

 ティリアはゆっくり封を開き、短歌と共に入っていた銀色の芯を取り出した。

 「ミスリル矢軸……試作品?」

 「世界樹の根で精錬した残渣(ざんさ)。軽いけれど魔力伝導率が高い。来期の仕事も頼むよ、って前払金」

 頬がさらに赤くなり、彼女は小さくうなずいた。

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