星降る夜の奇跡 – 第1話

星の光を仰ぎ見るうちに、時間の感覚がゆっくりとなっていく。ほんの小さなざわめきも聞こえない静寂が広がり、あたりには虫の声だけが響く。さらに目を凝らすと、今まで見えなかった星たちが次々と浮かび上がってくるようだ。都会にいた頃、夜空は灰色に近く、ネオンや街灯が放つ光で星を見つけることはほとんどなかった。仕事で疲れ果て、空をゆっくり見上げる余裕などなかった自分を思い出し、サヤはぎゅっと拳を握る。二度とあの頃のように心をすり減らす日々には戻りたくない。そう決意するのと同時に、自分が思っている以上に、この村の自然は大きな力を与えてくれるのではないかと期待を抱いてもいた。

「これから、ここでどうやって暮らしていこう……」

視線を星空から足元へ移すと、闇の中に浮かぶ自分の影が頼りなく伸びている。新生活を始めるには、家の整備も必要だし、職探しだってしなければならない。思うことはたくさんあるが、今はとにかくこの静けさに身を任せて、目の前の星を堪能しようとサヤは思う。暗闇の中、はっきりと形をとらえられるいくつもの星座を眺めていると、まるで自分を包み込んでくれているかのような感覚に陥る。いつしかサヤは深呼吸をし、やわらかな夜の空気と星の光をゆっくりと感じる。たったそれだけのことなのに、都会での喧噪をほんの少しだけ忘れられた気がした。

そうして星空を見上げたまましばらく佇んでいたサヤだったが、夜の冷え込みが体を刺すように感じ始めたので、名残惜しい気持ちを抱えながら古民家の戸を閉める。落ち着きのない寝床に体を横たえ、今度は家の天井を見上げる。飛び交う思考に身を任せるのはもうやめにしようと決め、サヤは深く長い呼吸を続けた。耳を澄ませば、遠くで何か小さな動物が鳴いているような声が聞こえる。いつの間にか瞼が重くなり始め、心地よい疲労感が体を包む。眠りの淵へとゆっくり落ちていきながら、サヤは今日見上げた満天の星々を思い出す。その眩い光が、明日からの自分をほんの少し照らしてくれるかもしれないと信じながら、サヤの意識は徐々に遠のいていった。

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