星降る夜の奇跡 – 第1話

「ちょっと古いけど……それにしても広いなあ……」

サヤは声に出してつぶやきながら、荷物を土間に下ろす。南側の縁側まで足を運ぶと、日暮れ前の柔らかい光に照らされた庭の向こうに、山の稜線が見える。見渡す限り人工物は少なく、聞こえてくるのは鳥のさえずりと、木々を揺らす風の音だけだ。長く続いたビルの谷間の生活を思うと、あまりに違いすぎる光景に思わずため息が出そうになる。一方で、これほどの静寂に身を置くのはどれだけぶりだろうかと考えると、不思議な高揚感もわいてきた。

そんなとき、庭から「ごめんくださーい」という声が聞こえた。ふと窓の外を見ると、白髪まじりの髪をまとめた初老の女性が立っている。サヤは急いで縁側から出て、挨拶をした。

「こんにちは。あの、今日からここに住むことになった山本サヤと申します。よろしくお願いします」

「あらあら、そうだったのねえ。わたしは隣に住んでるミツエっていうの。ここの家に、若い人が引っ越してくるなんて久しぶりだから、どんな人かと思ってね。こっちこそ、よろしく頼むわ」

ミツエはにこやかに笑い、そのままサヤの借りた家の土間を見回す。人懐こい眼差しと、柔らかい口調にホッとした。ミツエはこの村に昔から住んでいるらしく、「もし分からないことがあったら何でも聞いてね。畑やらなんやら、初めてだと戸惑うことも多いでしょう?」と声を掛けてくれる。都会では味わったことのない距離の近さに、サヤの不安は少しずつ和らいでいく気がした。

荷ほどきもそこそこに、ミツエが夕食用にと持ってきてくれた野菜や、漬け物などの地元の味を少し味見しながら、サヤは「ここでの生活って、やっぱり慣れるのに時間がかかりますか?」と尋ねた。ミツエは「そうねえ、冬は雪も積もるし、夏は虫も出るし、それなりに大変なことはあるわよ。でも、慣れちゃえばなんてことないわ。都会みたいに忙しくはないから、ゆっくり自分のペースでやれるのがいいところね」と答える。都会での激務とストレスに押し潰されそうになっていたサヤにとって、その言葉は何よりも安心を与えてくれるものだった。

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