星降る夜の奇跡 – 最終話

その傍ら、都会の友人から再び連絡が入った。以前紹介された大規模プロジェクトの件で、どうしてもサヤの力を借りたいという話だった。だが、サヤは迷うことなくその申し出を断る。都会で再起を図ることも一瞬頭をよぎったが、それよりも今の生活がサヤにとって何より大切なものになっていたのだ。電話の向こうで友人は多少驚いた様子だったが、「そっか……でもまた何かあったら連絡して」と理解を示してくれた。サヤは電話を切ると静かな気持ちで空を見上げ、自分にはもう一つの選択肢があることを改めて実感する。この村で、自分らしく暮らし、星空の魅力を伝える仕事に携われるのだ。

一方、ユウタも並行して天文学を学ぶ準備を進めていた。通信講座の資料を取り寄せたり、大学の集中講義に申し込んだりと、環境こそ整っていないものの、やれることは積極的にチャレンジしようとしている。昔は諦めてしまった夢だが、今なら一歩ずつでも進める気がすると、目を輝かせて語る。サヤはそんなユウタを心から応援したいと思っていたし、自分もデザインや広報の技術をもっと磨きたいという気持ちが強まっていた。

それから、月日がいくばくか過ぎた。村は季節を移ろいながら、観光客が少しずつ増え始めた。ユウタとサヤが企画した星の観察会は、大きな広告は打たなかったものの口コミを通じて評判を呼び、週末には近隣の人々や子ども連れの家族が集まってくる。昼間は自然散策と地元の食材を味わい、夜には満天の星空の下でユウタの解説に耳を傾ける。サヤの作成したパンフレットには、星座の簡単な見方や伝説の一部がイラスト付きで紹介されていて、子どもたちに特に好評だ。そんな風に、ユウタとサヤが力を合わせて作り上げる“小さなイベント”は、いつしか村を盛り上げる原動力になりつつある。

夏のある夜、サヤとユウタは古民家の縁側に腰掛け、夜風を感じながら空を見上げていた。今日も観察会が行われ、にぎやかな子どもたちの声がまだ耳に残っている。夕方には村のお年寄りが「あんたたちは大したもんだねえ」と声をかけてくれた。高齢化が進んでいるこの村にとって、外から来たサヤがこうやって活動しているのは珍しいことだが、今ではすっかり仲間として迎えられるようになった。ユウタは緩やかな風が吹く中で、しみじみとした調子で口を開く。

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