運命のレシピ – 第7話

 リナは両手いっぱいの空き容器を見つめ、ゆっくりうなずく。祖母の喫茶店を守るだけでなく、街の人々へ新しい匂いも運びたい――その願いが輪郭を得てゆくのを感じた。

 一方、東京ではタケルが辞表を提出した翌朝に私服で市場を歩いていた。冷たい空気に混じる魚の生臭さと柑橘の香り。白衣の重みが消え、代わりに未来の不安が背中を押した。

 そこへ駆け寄ってきたのは伊藤司だった。

「会長の側にいた俺が言うのも変だが、あんたの火を見捨てたくない。次の店、俺に財務をやらせてくれ」

 タケルは驚きながらも笑みを見せる。「数字は苦手だ。力を貸してくれ」

 二人は喧騒のコーヒースタンドで紙コップを合わせ、新しい計画を素早くノートに書き始めた。

 〈店名未定/場所:リナの町/コンセプト:地産×記憶〉――そこに書いた文字列は、白い蒸気で滲んだが、炎のように赤く輝いて見えた。

 銀行からの融資は「地方は回収が遅い」と断られた。だがタケルは諦めず、クラウドファンディングを立ち上げる。

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